~アレルギーは怖いよ、という話(前編)~の続き
入院初日の夜は、胸には心電図の小型の送信機が取り付けられているのが気になるわ、右肘は曲げられないわ、2時間起おきに看護師が点滴交換に来てくれるわで、一睡もすることができませんでした。
翌朝、母がパジャマを持って来てくれたタイミングで点滴の針を左腕の前腕外側に変えてもらってやっと自由に動かせることができました。
母は点滴の薬剤と落ちるスピードを見て
「ステロイドをバンバン入れていくんやな。」
と言いました。
しばらくすると、皮膚科外来に呼ばれました。
どうやら皮膚科の医師が主治医となるようです。(昨日処置してくれたのは内科医)
全身の蕁麻疹の状態を確認し、発症した状況を聞かれたので答えました。
「原因は何ですかね?」と私が聞くと、皮膚科医師は
「検査するけど、蕁麻疹の約6割は原因不明やからね。」
と答えました。
入院して2日間は、2時間おきぐらいでステロイドがバンバンと投与されました。
3日目・4日目と経過するにつれて、だんだんと投与の間隔が長くなってきました。
蕁麻疹も日に日に治まってきていたので
もうすぐ退院かなあ。
と考えていました。
調子が良くなってくると、入院生活ほど退屈なものはありません。
田舎の病院なのでWi-Fiなんてあるはずもなく、TVを付けても例の豪華客船のクラスターの話題ばかり。家から小型ラジオを持ってきてもらって1日中ラジオを聴いていました。
楽しみは3度の食事とシャワータイムぐらい。
点滴の針は留置したままで側管から上を抜き、チューブを腕に置いて濡れないようにラップでグルグル巻きにしてもらってシャワーを済ませました。
何にも繋がれていない時の解放感をたっぷりと味わってから、おとなしくまた点滴と送信機に繋がれました。
入院5日目の朝、皮膚科外来に呼ばれて診察がありました。
蕁麻疹はほぼなくなっていました。皮膚科医師は
「ずいぶん良くなってきたので、今日から薬を変えますね。」
と言いました。
病室に戻ると、ステロイドから抗ヒスタミン剤の点滴に変わりました。
その日の夜になって、また少し蕁麻疹が出てきました。
先に出ていた蕁麻疹はそれほど痒くなかったのですが、この時に出た蕁麻疹は猛烈に痒く、夜中に看護師が背中に敷くアイスノンのようなものを持って来てくれましたが、うつらうつらとすることしかできませんでした。
入院6日目、その日は祝日でした。蕁麻疹はますますひどくなり、嘔吐し呼吸も少し苦しく感じました。看護師に伝えましたが、サチュレーションは98%あるし胸の音も悪くないと言われました。
「とにかくつらいんです。」
と言いましたが、吐き気止めの薬を持って来てくれただけでした。
祝日で医師が休みであることはわかっていたので、1日我慢するしかないのかと諦めました。
入院7日目、とうとう顔にまで蕁麻疹は広がっていました。
昼食後に皮膚科の診察が入っていました。
昼食を取っている時に、食事が喉につっかえる感覚がありました。
あーあ。これ完全に逆戻りしてるわ
と自覚しました。
皮膚科外来に行き、全身の蕁麻疹を見せて食事が喉につっかえる感覚があったことを話そうとすると、その時は喉がつっかえていて話すことができなくなっていました。
医師の顔が一変し、内線で内科医と連絡をとり始めました。
その間のサチュレーションは96%。数値は正常範囲。
行きは歩いて行ったのに、帰りは車椅子に乗せられて病室に戻りました。
病室に戻ると、またステロイドがバンバンと投与されました。
入院8日目。ステロイド投与の間隔は長くなりましたがまだ続いていました。喉のつっかえ感はすぐになくなり、蕁麻疹も引いてきましたが、この頃にはステロイドの副作用で水分が体内に溜め込まれ、体重が10kgも増えていました。
シャワー時に自分の姿を見るたびに情けなく、もどらなかったらどうしようと不安になりました。看護師に
「これって元に戻るのかなあ。」
と尋ねると
「こればっかりは人によるかな。なかなか戻らない人もいるわ。」
と言われました。
情けなくて泣きそうになりました。
入院9日目。朝から水に溺れているような感覚がありました。
朝、いつも病室にきてくれていた担当内科医の助手の若い先生にその事を伝えると、レントゲンを撮ることになりました。
レントゲンを撮り終えるとしばらくして、今度はCTを撮ると言われました。
ここまでくると、イヤな予感しかしませんでした。
検査の結果、肺に少し水が貯まっているとのこと。
針で抜くのは感染の危険もあるので、できれば自然に抜けるのを待ちたいと言われました。この日は金曜日だったので月曜日の朝に再度検査して水が抜けていたら、内科的には退院可能であると言われました。
夕方、皮膚科に呼ばれました。肺の事は内科にお任せするしかなく、皮膚科的にはステロイドの点滴を外して内服薬で抑えられれば退院可能であると言われました。
点滴のステロイドを終了し、内服薬のステロイドに変更することになりました。
入院10日目。点滴も心電図の送信機も外れ、解放感でいっぱいになりましたが、体重・体型のことが気になっていました。蕁麻疹も治まっていました。
体力回復とダイエットのために、朝から病室で足上げやスクワット、ストレッチを黙々とやっていました。
そうこうしていると、利尿剤も投与されていないのにトイレに行く回数も排出量も増えていきました。ものすごい回数と量になりました。
入院10日目と11日目の2日間で貯まっていた水分が全部抜けてしまいました。
10kg増えていた体重が、一気に12kg減りました。入院時より-2kg。
一気に12kgも落ちると体調がおかしくなり、立っていることがしんどくなりました。
こんなんで明日、退院できるのか?
と心配になりました。
入院12日目。朝からCTを撮り、肺から水は抜けているとのこと。
内科的には退院決定。
皮膚科でも許可が出たので退院決定。
やっとのことで退院することができました。
めでたしめでたし、でまだ終わりません。
入院9日目に、皮膚科医師から今後『ゾレア』という注射で治療をしていきたいと話がありました。
この薬は最近、難治性の蕁麻疹に適用可能となった新しい薬で効果は出ているが非常に高価なので、医師が独断で処方するのが難しいと言われました。
医師に、ひとり親医療費助成があると伝えると、ぜひ制度を利用して治療をしましょうと言われました。
助成制度のおかげで治療を断念することなく、新しい薬も使用することができました。
2~3週間の間隔をあけて使用上限の計12回のゾレア投与となりました。
通院のために仕事は途中で抜けさせてもらいながら治療を続けました。
10月下旬に最後の12回目の注射を打ち、治癒となりました。
治癒にここまでかかるとは思ってもみませんでした。
アレルギーの当事者ではない人は、アレルギーを比較的軽く受け止めている場合もあると思います。
年配の方に多いのですが、食物アレルギーを単なる偏食にしか思っていない方がいらっしゃいます。
私を例にすると甲殻類(特にイカ)にアレルギーがあるので、食べ物を買う時や頂いたものを食べる時には必ず裏の成分表示を確認します。
少し前に流行ったタピオカを黒くする成分にイカスミが使われているものもあると知った時は、愕然としました。
眠気防止用のガムの黒いものにも、イカスミが使用されているものがあります。
以外な物にもイカが含まれています。
外食する時には絶対に大丈夫そうなものにするか、店員さんに確認します。
仕出し弁当や天ぷらの盛り合わせなどの衣が付いているものは、お行儀の悪いことですが怪しい物は衣を外して中身を確認します。
それらは自分の命を守るために必要な行為になります。しかしその行為を
「神経質やなあ。ちょっとずつ食べてみたら食べられるようになるわ。」
と無責任なことを平気で言います。
私も何度も何度も言われました。
ちなみにイカはアレルギーを発症するまでは大好物でした。
単なる食べず嫌いではない、ということをどうか理解して下さい。
何らかのアレルギー症状がある方は、何かいつもと違うなあと感じたら我慢せずになるべく早く病院に行って下さい。
私はギリギリ間に合いました。
自分自身の身体に向き合い、アレルギーとうまく付き合いながら生きていくしかないと実感した出来事でした。