中学時代の部活動を振りかえる中で、息子が一度だけ涙を流した事があります。
理由は厳しい練習や競技成績ではありません。
息子がずっと憧れ続けていた、A君のお話です。
息子がこの競技を始め最初の大会に出場した時、A君に出会いました。
A君はこの県でも有名な小学生で、全国の大会にも出場していました。
県の小学生の大会では圧倒的な強さ。
息子は足元にも及びませんでした。
A君とは同じ学年でしたが、息子はその存在感とオーラに少しビビっていました。
息子も次第に表彰台に上がることがありましたが、A君は不動の1位。
表彰式の写真には、必ずA君は1番高い所に立って写っていました。
大会が終わると、息子はいつもA君の話しをしていました。
息子「どんな練習してるのかな?いつも1番ってどんな気持ちなのかな?」
と言っていたので、
私「今度の大会で会った時に聞いてみたら?」
息子「無理無理無理。A君は神なんやから。そんな気軽に話できへん。」
私「あんたと同じ小学生やで?」
息子「A君は違うの!」
と言っていました。
6年生になり、前半の大会はオスグッドの症状がひどくて息子は大会に出場することができませんでした。
選抜チームの大会後、小学生の最後の大会には出場することができました。
もちろんA君も出場していました。
その大会で息子は初めてA君に勝ち、優勝しました。
優勝直後の息子は喜ぶどころか
「えっ?勝ったん?○○が勝っていいの?」
と不安になったそうです。
息子が進学した公立中高一貫校はA君と同じ学区になります。
そうなると、地区の小さな大会でも顔を合わせることになりました。
私「A君とは話しすることあるの?」
息子「無理無理無理。A君は別格!」
と言っていました。
ある大会で、競技中にA君が息子に話しかけている様子が観客席から見えました。
私「競技中に何話してたの?」
息子「A君が『一緒に決勝に進もう』って言ってきた。」
とのこと。
とりあえず息子には、競技中にそのような話をするのは他の競技者に対して失礼であることを伝えました。
しかし、この事をきっかけに一気に息子とA君の距離が縮まりました。
大会でA君に会うと話しをするようになり、ウォーミングアップやクールダウンも一緒にするように。
A君と普通に話しができるようになった息子はうれしそうでした。
その事を息子に言うと
息子「だって、あのA君が○○に話しかけてくれるんやで!」
例え同級生でも、絶対的な存在でした。
しばらくするとA君は大会で勝つことが少なくなっていきました。
中学生になってその競技を始めて伸び盛りの子、越境や住所変更をしてその競技に強い指導者がいる学校に転入し、頑張っている子が力を付けてきました。
息子も同じ時期に同じように勝てなくなりました。
ですが、息子は周りのアドバイスで適正を指摘されて種目を変更し、競技成績を向上させることができました。
息子は2年生からクラブチームの練習に参加しましたが、A君は小学生の時からそのチームで練習をしていました。
種目が違うので基本的に練習メニューは違いましたが、同じメニューの時は一緒に練習をしていました。
秋になりA君はクラブチームを辞め、学校の部活のみで練習を続けることになりました。
息子はクラブチームの練習でA君と過ごす事ができなくなって、少し残念そうでした。
3年生になると、A君は大会にもエントリーをしたりしなかったりになりました。
ある時の大会終了後、A君は息子に
「今日でこの競技は引退する。中学になって○○君は△△中学校で勉強も大変やのに競技も頑張ってて、ほんとにすごいなって思ってた。そんな○○君と一緒に練習したり戦ったりできてうれしかった。今までありがとう。」
と言ったそうです。
その場では堪えていた涙が、帰りの車の後部座席で溢れてきたようです。
息子「A君が○○の事をすごいって言ってくれて、一緒に練習できてうれしかったって言ってくれた…。一緒に練習できてうれしかったのは○○やったのに…。」
常に冷静な息子にしては珍しく、感情が混乱しているようでした。
それほど、A君は息子にとって特別な存在だったようです。
私「A君が○○の事、認めてくれてたんやね。よかったね。」
と言うと
息子「何があってもこれからも、A君は○○にとっての神、やから。」
と言って部活動を通して、初めての涙を流していました。
小学生の時に、『神』だと思えたA君に出会い、ライバルではなく憧れ続けたA君と切磋琢磨しあえた事が、部活動を頑張る1つのモチベーションになっていたのだと思います。